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「わたしが凍りつくとき」
もう、何年も前になりますが、しごとで中国に行ったときの話です。
その日の食事は、まあ、当然というか、中華でした。場所は上海からもそっと奥に入ったところ。本場の中華はさぞやおいしかろう。と、思っていたのですが、おいしいところは確かに驚くほどおいしいけど、ふつうは標準以下、というか、たいしたことない感じでした。わたしが日頃思ってる中華といえば、ラーメン、ギョーザ、チャーハンが代表選手ですがそういうのは逆にポピュラーではなく、(チャーハンはあったか…)町の人はほとんど(日本で言うところの)中華丼みたいなのを食べていました。ザーサイというものが存在していないのには驚きました。もう毎日中華なのでいいかげんつらくなって(とくに朝)ほとんどおかゆとむしパンみたいやつをたべていました。で、ここにザーサイでもあれば、と思ったんですけどね。いちばん重宝したのはノリの佃煮。これとおかゆで生きていました。
事件が起こったのはそんなある日。
ラーメンを注文したわけですけど、ラーメンも日本で食べるようなスタイルではなくて、どかっとでっかい鍋にみんなの分がまとめて出てきます。わりと煮込んだ、煮込みそばみたいなイメージです。
その日のラーメンはとってもおいしくて、「香妃園のとりそば」なみでした。(知らないって普通)「あー、おいしいねえ」なんて、のんきに食べていたんですが、ふと自分の器をみると、一本の髪の毛が…「わー、しょうがねえなあ」箸で摘もうとしたのです。ふつう手でとったりするのですが、その日は箸で。手だったら結構大変なことになっていたと思うのですが、箸で摘もうと思った時点で、それはかなり太かった、と、いうことになります。…で、つまんで、ちょっとひっぱったところで、出てきたのです。あたまが…
それはいわゆる、「ゴキ」と、いうやつだと思います。(全身を見ていないので正確にはわかりませんが…)あのアタマの大きさから推測すると、かなり巨大であったと思われます。
そのとき、すべてが凍りつきました。時間が止まり、景色が止まり…
きたない、とか、もったいない、とか、そういうことを考える隙もなくて、息が「うっ」と、止まる感じです。
わたしはそのとき、声を出しませんでした。出せなかったのです。そして次にしたことは…
そっと、………埋めました。
遠くの方で(本当は近くだが)「もう一杯食べちゃおう」という声が聞こえます。…いえません。そんなこと。
もちろんわたしは、そのあと全く食べませんでした。普段一杯食べるタイプですから、おかしいと思った人がいたかもしれません。でもそのときは、だれもつっこみませんでした。
だから、あの日の食事は、みんなの思い出の中では、いまも「おいしいラーメン」として、美しく息づいているはずです。まだ誰にも本当のことは言っていません。そして、これからも言うつもりはありません。このページを見てくれないことを祈るだけです。(それなら書くなっつーの)
お食事中の人、汚い話ですいませんでした。(いないってそんな人)
1998.2.1
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